みんなのいまとこれから
潰瘍性大腸炎・クローン病患者さんの「いま」と「これから」に役に立つ情報を紹介します。

スポーツがしたい!はじめてみたい! ―そんなみんなに伝えたい思い― 第二回

監修:
医療法人愛知会 家田病院 副院長・IBD部長 太田 章比古 先生

潰瘍性大腸炎やクローン病の患者さんにとって、体を使う運動やスポーツは、病気の状態が悪い活動期には避けた方が望ましいものの、状態が落ち着いている寛解期にはむしろ勧められます。ただし、十分な水分を取りながら、あまり疲れすぎないのがポイントです。そして何より大事なのは、スポーツや運動のことについて、主治医の先生と相談しながら進めて行くことです。今回は、私が主治医を務めた元ジャパンラグビートップリーグのフッカーの川西 智治さん、一緒に治療に臨んだ看護師の藤原 恵子さんと共に、潰瘍性大腸炎やクローン病患者さんのスポーツについて考えます。

元ラグビートップリーグ川西 智治 選手からのメッセージ

エクササイズ動画一覧

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    第一回
    「歩く」を支えるおしり周りのエクササイズ

    おしりの筋肉は歩行時に体重を受け止め、動きを安定させる役割を担っています。週3回行いたいエクササイズです。

  • video 2

    第二回
    「きれいな姿勢」を目指して
    上半身のエクササイズ

    姿勢が悪くなると呼吸がしにくくなったり、腰痛や嚥下障害のリスクも高まります。毎日行いたいエクササイズです。

  • video 3

    第三回
    「転倒予防」のために下半身のエクササイズ

    たった一度の転倒でも、骨折による入院や療養生活がフレイルに繋がることもあります。週3回行いたいエクササイズです。

  • video 4

    第四回
    「腰痛予防」に腰回りと腹筋のエクササイズ

    身体を支える腹筋が弱くなると、腰痛につながる恐れがあります。週3回行いたいエクササイズです。

  • video 5

    第五回
    「ふらつき・転倒予防」に
    バランス向上エクササイズ

    シニア世代では立ち上がりや歩行の際にふらつき、転倒するケースが多くあります。週3回行いたいエクササイズです。

  • video 6

    第六回
    「からだをほぐしてリラックス」
    ヨガの動きでストレッチ

    寝る前、朝起きた時に、簡単なストレッチはいかがですか? ヨガを取り入れた動きでゆっくり身体を伸ばしていきましょう。毎日行いたいエクササイズです。

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  • 漫画:カネシゲタカシ

― 対談第2回(全4回) ― スポーツ選手にとって重要な食事と病気の状態について

元ラグビートップリーグ 川西 智治選手
医療法人愛知会 家田病院
看護部長
藤原 恵子先生
医療法人愛知会 家田病院
副院長・IBD部長
太田 章比古先生
太田:
炎症性腸疾患(IBD)では、病状が安定している寛解を維持することでスポーツや運動を何ら問題なく行うことが出来ます。寛解期の食事は、一般的なメニューを食べても問題ありません。もちろん、大量の脂質を一気に食べるようなことは避ける方が望ましいですが、これは一般の方も同じですよね。ただし、病状が悪化している活動期では、腸への負担が少ない食事が求められます。川西選手も、トップリーグ時代に潰瘍性大腸炎(UC)が悪化した際の食事は大変だったのではないですか。
川西:
現役時代、僕のポジションはスクラムで最前線の真ん中に位置し、足でボールを送って、スクラムの舵取りを担う“フッカー”でした。激しいぶつかり合いの中で、自分を守るのは鎧となる身体そのものであり、そして身体を作るために、とても重要なのは食事です。しかし、UCが悪化していると、少しの食事でも腸が激しく動いてしまい、すぐにトイレに駆け込んでしまいます。そのため移動のある試合前日の朝は、クラブハウスで軽い食事をとった後、練習が終わって何も口に入れずに試合地まで向かい、ホテルに着いてやっと食事が出来るという状況でした。
 試合の前日は、体にエネルギーを貯めることが非常に重要となります。その大事な日に、練習を挟んで約12時間食事がとれないことは本当につらく苦しいことでした。そして、ここまで気を付けても、トイレを我慢できないこともありました。試合当日のチームバスでの移動の際、自分のトイレで皆のタイムスケジュールを崩さないために、紙おむつを使ったこともありました。
 こんな状態が続くと、体重はどんどん落ちていきます。それでも、試合に出ることができる喜びはどんな苦しみよりも大きいので、一生懸命頑張りました。しかし無理はあったのでしょうね、筋肉が細くなってしまい、3年目のシーズン後半で足首の腓骨を脱臼骨折して、そのシーズンは終わってしまいました。あの頃の、ベストな状態で戦えないという苛立ちとつらさは、決して忘れることはできません。
太田:
川西選手の試合を観戦したことがあり、すごい迫力でした。観戦した時は寛解期だったと思いますが、やはり活動期は大変でしたよね。特に、ラグビー選手ならではの食事に対する苦悩は大きかったことと思います。川西選手のほかにも、私の担当しているクローン病(CD)患者さんで、親元を離れて部活に打ち込んでいる高校生がいます。CDでは特に栄養療法が重要となるため、その患者さんは成分栄養剤を寮に持参して、経鼻チューブの自己挿入を行うなど、頑張って治療に取り組んでいます。これは私見ですが、部活や勉強、仕事等に対して真剣に向き合っている方だからこそ、それらを充実させるために、治療に対してもまじめに取り組まれているのではないでしょうか。
藤原:
私も同じ感想を持っています。例えば、どんなに健康な人でも、脂肪や塩分の多いファストフードばかり食べていたら、メタボリック症候群のリスクが高くなりますよね。IBD患者さんは病気であるがゆえ、高脂質を避け栄養バランスの取れた食事を心がける、暴飲暴食を避けるなど、本来みんなが気をつけるべきことに、より真面目に取り組んでいる方が多い印象です。内視鏡検査も決して楽ではないと思いますが、定期的に検査を行うことで、一般の方よりもガンが早期発見されやすいことも確かです。「病気だからこそ、日頃の食事や健康を意識して生活する」ということは決してネガティブなことではありません。かえって他の病気のリスクが減る場合もあるため、むしろ前向きに捉えていただければと思います。
川西:
僕もUCの発症以降、体調管理に十分気を付けるようになり、例えば新型コロナウイルス感染症が流行する前から、手洗いはこまめに行っていました。そのおかげか最近は風邪もひいていませんし、寛解期も長く続いています。
藤原:
IBDでは寛解を長く維持することがとても大事です。ただし、あまりストイック過ぎるとかえってストレスになることもあります。特に食事は毎日のことですので、自分の体調と相談しつつ、適度に楽しむことも大切です。食事や生活などで分からないことや困ったことがあったら、私たち看護師や医師に気軽に相談して欲しいですね。

ー続く