みんなのエッセイ
患者さんのエッセイを紹介

子どもの病気をみんなで支え 充実した学生生活へ ークローン病のお子さんと一緒に歩んできたお母さんのエッセイです。

今回おはなしを聞いた方

クローン病のお子さんとそのお母さん
川越 克明さん(仮名)と川越 佐規子さん(仮名)

克明さん(仮名)は、小学生高学年のころクローン病を発症。母親で医療従事者の佐規子さん(仮名)をはじめ家族一丸となり治療をサポートし、現在では充実した学生生活を過ごされています。今回は、克明さんの病気との歩みについて、佐規子さんからお話を伺いました。

※このエッセイは患者さんへのインタビューをもとに作成しています。

専門病院で病気に寄り添ってもらえた安心感

『囲碁教室で、気付いたらお尻が痛くなっていた。』
『そうなの、それじゃ念のため皮膚科に行こうか。』
小学生の克明から相談を受けたとき、それまで病気らしい病気にかかったことが無いだけに、軽く考えていました。実際に、皮膚科でお尻を診てもらうと、すぐに治まりましたので。しかし、しばらくするとお尻の痛みがぶり返して、徐々にトイレに行く回数が増え、ついに腹痛や発熱も起こったため、進学した中学校も休みがちになってしまいました。

 『これは肛門科に行くべきだよ。恥ずかしいかもしれないけど、すぐ終わるから一緒に行こう。』と説得して、半ば無理やり専門病院に連れて行ったところ、腸の病気の可能性を指摘されました。 『すぐ帰れるんじゃなかったの? 何でこんなにいっぱい検査しなきゃいけないんだよ!』
ショックもあったのか、克明は検査に抵抗します。すると、担当してもらったF先生は『嫌な検査はやらなくていいよ、出来る範囲の検査で病気を見つけて行こう。』と言ってくれました。その後克明は安心したのか、多くの検査を受け入れ、結果的に早期のクローン病と診断されました。この時の、病気に寄り添ってもらえたという安心感や心強さを忘れることはできません。

クローン病をおさえることで出来る食事や日常生活

 克明の場合は、早期診断による早期治療によって、日常生活への影響はさほど大きくありませんでしたが、それでも食事には気を付ける必要がありました。育ち盛りに入ると、お肉を食べたいのは当然ですし、みんなと同じ給食を食べるということも大切にしたいと思っていました。そこで、暴飲暴食を避けた上で、自分の症状から『今日はこの料理をここまで食べられる。』というように、その場で判断して食事を調整することを心がけるようになりました。経腸成分栄養剤で、腸を休めることの重要性も説明したので、理解していると思います。

 ただ、大腸内視鏡検査は、どうしても辛いようです。口から下剤を飲めず、鼻から流し込んでもらったこともあります。F先生は克明に、『今は腸が荒れているから、量の多い下剤を飲むのもつらいよね。でも、次回の検査では、腸が良くなっているから飲みやすくなるはずだよ。』と伝えました。確かに検査は状態が悪いときに受けることが多いため、検査自体が負担になることも少なくありません。しかし、検査の流れや意味、目的の理解が進むにつれて、受け入れやすくなってきたようです。最初の頃は、私も内視鏡検査前の絶食につきあっていました。克明が検査室に入ると、私はこっそりおやつを食べていたことは内緒です。

 クローン病にかかった後の日常生活では、克明にとって部活の吹奏楽を続けられたことが心の支えとなっていました。病気のせいで好きなことを出来ないのが辛いようで、吹奏楽を続けるためにも、F先生から最初に言われた『薬は大事』の言葉を守り、治療へ前向きに取り組んでいました。将来は、『教師になって吹奏楽部の顧問を務めたい。』と考えているようです。

クローン病と歩む上で求められる選択

 クローン病患者にとって、トイレの場所を把握しておくことはとても大事です。例えば受験の際に、子供が付き添いを嫌がったとしても、トイレの場所を事前に調べて、子供に伝えておくことは親の役割と考えました。今では、吹奏楽の演奏会場などで、最初に自分でトイレを探すことが習慣になっているようです。

 学校では、林間学校など宿泊のイベントがありますが、やはり先生方の理解が重要となります。克明の場合、担任の先生だけでなく、保健室の先生や校長先生もクローン病について勉強してくださったそうで、感謝しかありません。最初の宿泊イベントの際、克明はみんなと一緒の風呂も楽しみにしていましたが、担任の先生から、 『その場では、楽しいかもしれないけど、その後ふとしたきっかけでお尻のことをからかわれるかもしれない。「みんなに最初に痔瘻のことを話した上で一緒に入る」「みんなと時間をずらして入る」という二つの選択肢があるから、時間をかけて考えて欲しい。』と言われたそうです。

 結果、時間をずらした入浴となりましたが、自分の病気と向き合い、考えて結論を出すことの大事さを学ぶ良い機会となりました。その後、学校や部活を休む判断や学校行事での役割など、多くのことを自ら決定していき、修学旅行も満喫したようです。

 克明の場合は、本当に多くの出会いに恵まれたと思います。病院の先生は切り札的な治療選択肢を温存してくれたり、学校の先生は自分で選択することの大切さを教えてくださったりと、常に将来を見据えてもらいました。発症した時の不安な思いは、今でも心の奥に潜んでいます。しかし、治療で症状を抑えることは可能ですし、症状が抑えられていれば、少しの工夫や努力で、みんなと同じ学校生活を送ることが出来ると学べました。もちろん、病気には個人差がありますが、克明と同じような小児発症のみなさんが充実した学校生活を送ることを望んでいます。

次の患者さんへのメッセージ
 次回は、高齢の患者さんのエッセイとのことです。若いうちに発症されてお年を召された患者さんでは、治療を長く続けている方が多いと思います。病気と長く付き合うのは、ご苦労も多かったのではないでしょうか。そのようなご苦労を十分理解した上で、あえて伺いたいのは、病気になっても変わらなかった部分や、さらに病気をプラスに感じた瞬間です。そのような瞬間がもし仮にあったとすれば、若い患者さんに伝えて頂ければありがたいです。