みんなのエッセイ
患者さんのエッセイを紹介

人との出会いが道を決める(後編)
―患者には、笑顔になるための選択肢がたくさんある―

今回おはなしを聞いた方
ストーマ造設された大阪IBD 前会⻑  布谷 嘉浩 さん
布谷さんは、高校生のころクローン病を発症。その後治療を続けながら、難関資格である不動産鑑定士を取得されます。働きながら3度の手術を経て、人工肛門(ストーマ)を造設。現在は「自身の経験を役立てたい」と患者会活動に力を注がれています。今回は後編として、ストーマ造設後の生活や患者会活動についてお話を伺いました。

※このエッセイは患者さんへのインタビューをもとに作成しています。

ストーマとの縁で、生活が一変

『やっと苦しみから解放された。ストーマをつけて良かった』
これがストーマを造設した後の、正直な私の気持ちです。ストーマをつける前までは1日30回もトイレに行き、いつもトイレのことを考えていたのですから。ただ、私の場合は造設までの時間や苦しみがあったからそう思えるのであって、いきなりストーマをつけることになった方は、受け入れるまでに時間がかかるかもしれません。それでも私のような永久ストーマの場合、「嫌だからやめる」と戻ることは出来ません。ですから、前向きに「ストーマといかに上手く付き合うか」を考えてきました。

 ストーマで一番大切なのは相性だと思っています。私の場合は永久ストーマで、ツーピースのものを使っています。ストーマをつけて10年を超えましたが、違和感なく使い続けてこれたのは、幸運としか言いようがありません。1日3〜4回ストーマ袋に入ったものをトイレに捨てる、ということとトイレに30回行くのとでは、明らかに生活の質が向上しました。

 ストーマはずっとお腹に貼りついたままなのに、肌荒れもなく痒くもならない。これは本当に有り難いことです。粘着性の高いテープを体に貼り続けて、皮膚になんの異常も違和感もない、ということはなかなか少ないでしょうから。この肌と装具の粘着部分との相性は、ストーマを使い続ける上でとても重要なポイントだと思います。人によってはストーマの粘着部分が肌に合わなくて、痒みや痛みがでるという話も患者会で聞いたことがあります。最近では色んなメーカーのものがあるので、どの装具が合うかを事前に試すことができればいいな、と思います。

ストーマで大浴場に。日常生活での工夫を探して

 ストーマで一番怖いのは“漏れ”です。常にリスクを抱えていて、最初は「漏れないかな」といつも心配していました。そこで私は現在、いくつかの工夫をしています。ストーマを体に着ける面板部分の周辺にさらに皮膚保護テープを貼ったり、ストーマの周りにリングをつけて、さらに漏れ防止のパテを塗ったりと、3つも4つも漏れ防止をしています。お陰で2週間以上の交換期間で過ごせています。ただ、どうしても手間と費用がかかるのは避けられません。例えば「今日は絶対失敗できないな」という時だけ、重装備にしてみることも一つの手段です。

 家族との温泉旅行も楽しんでいます。ストーマを付けたまま大浴場に入ることは可能です。しかし、知らない人からの視線は気になりますし、落ち着いてゆっくりと温泉に入りたいという思いがありました。そこで見つけたのが、装具の上から覆うことが出来るカバーです。肌色で、遠目からみるとストーマを付けているかが分からなくなります。自分自身がストーマのことを気にせずに過ごすことができるので、こういった製品は嬉しいですね。

 ストーマになったからといって、何かが制限されることはないと思っています。しかし例えば、ストーマを付けたことによって、変わってしまう人間関係があるかもしれません。「それはもう、しょうがない」と割り切ることにしています。コンプレックスを持ってしまうと、積極的な行動ができなくなるからです。日頃から、精神面を意識して前向きに気持ちをコントロールする努力をしています。一度きりの人生ですから、これからも工夫をしながら楽しんでいきたいと思います。

笑顔になるための選択肢は、たくさんある

 患者会活動を始めて、もう25年以上になります。色んな想いを持って集まった仲間達の中で出た結論が、「患者会とは患者の笑顔のための活動である」ということです。自分を含めて、笑顔の繋がりになっているか、少しでも笑顔に近づけるためにはどうしたらいいか、と考えながら仲間と歩んできました。

 私が一番患者会で伝えたいことは、「選択肢はあるんだよ。」ということです。患者会の中で「他にもこういう方法がありますよ。」とお伝えした後は、その方の人生の選択ですが、選択肢があることすら見えていない状況の方も珍しくありません。患者さんの状況や悩みは人それぞれですし、これが正解という明確な答えを示すことはできませんが、重要なことは患者さん自身が納得して自分の道を選択することです。同じ病気をかかえている仲間の経験や意見が聞ける機会を作ることが私たちの使命だと考えています。

 私は自身の経験から、医療を受ける際の工夫はとても大切だと考えています。リストを渡したり、自分に適していそうな専門の先生を探したり。そういった工夫やメリットについて、自由に情報交換できるのは患者会の一つの役割だと思っています。病気になるのは突然です。「どうしたら良いか分からない」という時はぜひ患者会を頼って欲しいです。

 近年ではインターネットで情報が得られるので、患者会で話す内容も変わってきました。以前は「どう治すか」が話題の中心でしたが、最近は就学や就職、結婚など、「治す」ことから次のステージの悩みに変わってきたな、と感じています。病気になると、やはりコンプレックスからか病気の話をしてしまいがちです。しかし、充実した社会生活を送るためには、むしろ「自分ができること」を積極的に周囲へ伝える必要があります。とはいえ、自分が見えなくなる状況に陥ることがあるのも自然なことです。そのような際は、患者会で一緒に道を探すお手伝いができたらと思っています。

 実は患者会の究極的な目的は、患者会がなくなることなんです。必要ないということは、病気や生活に困ったり、悩んだりしない状況になったということですから。そんな未来に向けて、これからも情報発信を続けていきたいと考えています。

次の患者さんへのメッセージ
 次回は、働き盛りの30代の方のエッセイとのことです。30代の頃、治療をしながら働いて感じたことは、病状が再燃しない工夫をすることの大切さでした。社会生活を続けるには入院や手術はなるべく避けたいものだからです。
 患者会でアンケートを取った所、再燃の一番のきっかけはストレスでした。ぜひ無理をせず、自分に合う食事や生活スタイルを見つけて、働く喜びを感じていただきたいです。